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お知らせ

レポート

スイッチOTCの対象成分を含有する医薬品の処方動向について

当社(日本システム技術株式会社 以下、JAST)では、独自に保有している匿名化済の診療報酬明細書(以下、レセプト)データを中心とした医療関連データを基に、調査を行っています。

今回のレポートでは、スイッチOTC(Over The Counter)をテーマに処方実態および製薬企業のシェア率について分析を実施しました。

医薬品は大きく分類して、医師の処方がなければ購入ができない医療用医薬品と医師の処方がなくても購入ができるOTC医薬品の2種類あります。

日本政府では、急速な高齢化の進展による医療費高騰への対策や国民のセルフメディケーションへの関心の高まりから、スイッチOTCの活用が推進されています。スイッチOTCとは、医師の診断・処方せんに基づき使用されていた医療用医薬品を薬局・薬店などで購入できるように転用(スイッチ)した医薬品のことをいい、現在93成分が登録されています。このようなスイッチOTCの推進に伴い、製薬業界や金融業界ではスイッチ後の市場動向の調査は重要課題となっています。

スイッチOTCについてはこちらをご確認ください:医療用医薬品から一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進

そこで本レポートではスイッチOTCとして承認済の薬効成分のうち「エピナスチン」または 「フルチカゾンプロピオン酸エステル」に該当するものについて、処方実態および製薬企業のシェア率について分析を実施しました。

【集計条件】
調査対象:JASTの保有するレセプトデータ(約900万人 2024年5月時点)
対象期間:2018年1月~2023年12月診療
対象成分:エピナスチン塩酸塩、フルチカゾンプロピオン酸エステル
医薬品区分:
 ①エピナスチン塩酸塩:内用薬
 ②フルチカゾンプロピオン酸エステル:外用薬
※市販薬にて販売されている医薬品区分に準じ設定しております。

< 目次 >
1.アレルギー性鼻炎・結膜炎における花粉症患者数の推移
2.薬効成分「エピナスチン塩酸塩」の処方動向およびシェア率
3.薬効成分「フルチカゾンプロピオン酸エステル」の処方動向およびシェア率

1.アレルギー性鼻炎・結膜炎における花粉症患者数の推移

前提として、アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎に罹患している患者を花粉症患者とし、患者数を調査しました。患者数は2019年から2020年にかけて減少し、2023年に急増しています。2020年、2021年は花粉飛散量が例年より少なく、新型コロナウイルスによる医療機関への受診控えが起きていたことから患者数が減少しています。一方、2023年には新型コロナウイルスが2類から5類へ移行したとともに、花粉飛散量も例年より多くなり、患者数が急増しています。

※花粉飛散量についてはこちらをご確認ください:花粉情報サイト | 保健・化学物質対策 | 環境省 (env.go.jp)

2.エピナスチン塩酸塩の処方動向およびシェア率

「エピナスチン塩酸塩」は2010年にOTC承認がされ、ドラッグストアなどで購入ができる医薬品成分です。この成分を含むOTC医薬品の中には一般的に広く認知されている製品もあり、2015年以降は第二類医薬品として販売されています。

当社のレセプトデータから「エピナスチン塩酸塩」を含む医療用医薬品の売上高を調査しました。売上高は減少傾向であり、2018年から2023年にかけて3分の1程度まで減少しています。これは医薬品の薬価が2018年から2023年にかけて40%~55%程度減少していることが影響しています。この影響を考慮しても、売上高は60%以上減少しており、薬価の減少以上に売上高が減少していることから、OTC医薬品への切り替えが進んでいる可能性が示唆されました。

製造販売をしている製薬企業の構成比を以下のグラフにまとめました。先発品を販売している日本ベーリンガーインゲルハイム社のシェア率が減少し、日本薬品工業社、東和薬品社、沢井製薬社などの後発品を扱う企業がシェア率を伸ばしています。このグラフでは、2018年から2023年にかけて先発品と後発品の薬価の差額が60%から45%まで縮まったことで、よりシェア率が減少しているように見えていますが、薬価の差額の縮まり以上に売上高におけるシェア率が減少しています。現在日本ではジェネリック医薬品の利用推進をしているため、先発品から後発品への切り替え起こり、後発品を扱う企業のシェア率が伸びていることが示唆されます。また、2020年まで一定のシェア率があった日医工社が2021年から大幅にシェア率が減少しています。これは、2021年の行政処分により医薬品の製造ができなくなったことを反映しています。

3.フルチカゾンプロピオン酸エステルの処方動向およびシェア率

「フルチカゾンプロピオン酸エステル」は2019年4月にOTC医薬品の販売が承認され、2019年11月にOTC医薬品が発売された医薬品の成分です。2022年には製造販売後調査が完了し、現在OTC医薬品としては第一類医薬品にて販売がされています。

この成分を含む医療用医薬品について売上高を調査しました。「フルチカゾンプロピオン酸エステル」を含む医療用医薬品はOTC販売前と比較して売上高がやや減少傾向にあるものの、ほぼ横ばいの状態となっています。この調査期間において「フルチカゾンプロピオン酸エステル」を含む先発薬の薬価は40%程度減少、後発薬は30%程度減少しました。薬価が減少しているにも関わらず、売上高が減少していないことから、この成分を含む医薬品はOTC医薬品への切り替えが進んでいない可能性が示唆されました。

製薬企業のシェア率上位3社は5年間連続で、グラクソ・スミスクライン社、キョーリンリメディオ社、沢井製薬社となっているものの、グラクソ・スミスクライン社はシェア率が減少し、キョーリンリメディオ社、沢井製薬社はシェア率が増加しています。また、2020年から製造販売企業が新規参入しており、特に東興薬品工業社は年々シェア率を伸ばしています。先発品を製造販売しているグラクソ・スミスクライン社のシェア率が減少し、後発品のシェア率が伸びているのは、価格差、医療機関及び薬局等によるジェネリック医薬品の利用推進に加え、デバイスの違いによる使用感の差が影響している可能性があります。

ここまでスイッチOTCとして承認されている成分を含む医療用医薬品の売上高(市場規模)や製造販売企業のシェア率を調査しました。セルフメディケーションによる医療費削減効果は高く、政府では現在もスイッチOTCの検討が進められています。スイッチOTCに関連する経済分析や製造販売をしている企業の分析にレセプトデータを利用してみてはいかがでしょうか。

今後とも当社のメディカルビッグデータの分析を通じて、医療の発展に貢献できるような研究レポートを発信してまいります。レポートについて、気になる点、詳しく知りたい点などがございましたら、下記お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。また、データ利用についてのお問い合わせもお待ちしております。

お問い合わせ – JAST Lab